2012年5月1日火曜日

海外感染症情報, インフルエンザ, 2012年3月16日-更新155

Infectious Diseases Weekly Report in Japan 2012 (12) 03/19-03/25




2012 (12 ) 03/19 -03/25

海外感染症情報 Page 15 - Page 19

WHO Epidemic and Pandemic Alert and Response





インフルエンザ

2012年3月16日-更新155

【要約】

・北半球の温帯地域諸国では引き続きインフルエンザの活発な感染伝播が持続しており、北米、

中国北部とヨーロッパのいくつかの国で活動性が上がっている。南ヨーロッパと北アフリカの

いくつかの国々では、日本や韓国と同様にピークを迎えている。

・熱帯地域諸国のほとんどは、インフルエンザの活動性は低いレベルであると報告している。

・北半球の温帯地域諸国のほとんどにおいて最も多く検出されている型あるいは亜型は、イン

フルエンザウイルスA(H3N2)である。メキシコや中央アメリカにおいてはインフルエンザウイル

スA(H1N1)pdm09が優位な亜型であり、中国及びその周辺諸国では未だインフルエンザウイ

ルスB型が優位であることが報告されている。

・抗ウイルス薬への耐性は非常に低いレベルで観察され、前シーズンに報告されたレベルを著

しくは超えていない。

【北半球温帯地域諸国】

全体として北半球の温帯地域諸国におけるインフルエンザの活動性は未だに上昇し続けてい

る。米国や英国を含むいくつかの国では、前年の流行に比べ穏やかである。しかしながら、そ

の他の国々における活動性は前年と同等か、より高いレベルに達している。

・北アメリカ

カナダでは、インフルエンザの全体的な活動性は過去数週間にわたって増加し続けている。

国全体のインフルエンザ様疾患(influenza-like illness:ILI)の相談件数は、2月の最終週は人口

1,000人当たり31.3人から38.6人に増加し、インフルエンザ陽性となった検体の比率は、10.5%か

ら17.9%に増加している。施設関連のインフルエンザのアウトブレイクも2月後半の2週で著しく

増加した。第9週には、長期入所施設13カ所、学校9カ所、病院1カ所、その他の施設6カ所の計

29のアウトブレイクが報告された。今シーズンは、インフルエンザ関連の小児入院例が160例報

告され、そのうちの69%が5歳未満の小児であった。これらの入院例の53%はインフルエンザウ

イルスA型に伴っていた。今シーズンの成人のインフルエンザ関連の入院は226例であり、この

うち47.8%は65歳以上の患者であった。ILIの活動性は例年と同等であり、現時点での施設関

連のアウトブレイクの人数は前年の同時期よりむしろ低いと思われる。B型は陽性検体の増加が

報告されており、全インフルエンザ検体中、シーズン始めの36.5%から46.6%まで増加している。

A型とB型は年齢ごとに均等に罹患している訳ではなく、B型は第9週には5歳未満の小児から検

出されたインフルエンザウイルスの50%であったが、65歳以上の成人から検出されたウイルスの

わずか29.3%であった。A(H1N1)pdm09は、今シーズンは5歳未満の小児で亜型が判明したA

型のうちの30.2%であったが、65歳以上の成人ではわずか8.1%であった。シーズンの開始以来、

A(H3N2)と判明した107例中、94.4%が現在のインフルエンザワクチン株(A/Perth/16/2009)と抗

原的に類似していた。同様に、A(H1N1)pdm09と判明した87例中、98.9%がワクチン株である

A/California/07/2009と抗原性が類似していた。B型と判明したうち、55.3%はB/Brisbane/60/2008

ワクチン株と抗原性が類似し、44.7%は山形系統に属する参照ウイルスB/Wisconsin/01/2010様

と抗原性が類似していた。シーズンの開始以来抗ウイルス薬の耐性を検査した全てのウイルス

は、オセルタミビル(451検体)とザナミビル(450検体)に対して感受性であった。

米国ではインフルエンザの活動性はいくつかの地域において上昇しているが、ILIは国全体と

して比較的低いままであり、外来患者のわずか2%しか報告されていない。国レベルでの季節性

のILI受診閾値は2.4%である。インフルエンザが陽性となった呼吸器系検体の比率は18.4%から

21.3%に増加した。3つの州(アラバマ、ミズーリ、オクラホマ)ではILIの活動性は高く、2つの州

(イリノイ、カンサス)では中等度のILIの活動性を示し、他のすべての州では低いかごくわずかな

活動性を報告した。インフルエンザの活動性が広範囲に及んでいると報告されている州は、こ

の1週間に6州から9州に増加した。122都市での定点報告では、肺炎とインフルエンザによる死

亡の割合は、国の流行閾値を下回っている。インフルエンザ関連の小児死亡例1例はA(H3)関

連であったとの報告があり、今シーズンの18歳以下の小児死亡例は計5例となった。インフル

エンザ関連で入院となった検査確定例593例のうち、521例(87.9%)はA型であり、61例(10.3%)

はB型、1例(0.2%)はA型とB型の混合感染であった。これらのA型の症例のうち、185例はA

(H3N2)で、61例はA(H1N1)pdm09によるものであった。成人のインフルエンザによる入院例で

最も一般的に報告されていた基礎疾患は、慢性肺疾患、代謝異常症、肥満症であった。小児

のインフルエンザによる入院例で最も多く報告されていた基礎疾患は、慢性肺疾患、喘息、神経

疾患であった。インフルエンザで入院した小児の50%は、何も基礎疾患はなかった。A型はほ

とんどの地域で最も多く検出されるウイルスであり、3月の第1週は全体の94.7%であった。A

(H3N2)は、シーズン開始以来、A型の亜型の中では76.8%を数えていたが、A(H1N1)pdm09に

比べて徐々にその割合は減少している。3月の第1週には、A(H3N2)はインフルエンザウイルス

の亜型の中では、わずか64.7%であった。今シーズン現在までに抗原性を解析したインフルエン

ザウイルスのうち、A(H3N2)の407株のうち78.4%と、A(H1N1)pdm09の127株のうち98.4%が、

現行の3価の季節性インフルエンザワクチンに含まれるウイルスと類似性があった。このことは、

ワクチンと類似性のないA(H3N2)の検出が著しく増加していることを示している。B型78株のう

ち36株(46.2%)はVictoria系統に属し、またB/Brisbane/60/2008様株であり、2011/2012シーズン

の北半球のワクチンの成分であった。今シーズンに検査を行ったA型439株とB型79株は、A型

の1株を除いてすべてノイラミニダーゼ阻害の抗ウイルス薬であるオセルタミビルやザナミビルに

感受性があった。耐性ウイルスの1株は、A(H1N1)pdm09であった。

メキシコでは、インフルエンザが陽性であった検体の割合は3月初旬には30%から25%まで低

下し、これは年の始め以来最も低くなっている。A(H1N1)pdm09は、未だ最も一般的に検出さ

れる亜型である。

・ヨーロッパ

ヨーロッパでは、大陸の大半で呼吸器疾患の活動レベルは不変あるいは上昇しているとの報

告が続いているが、アルバニアとブルガリア、イタリア、スペインでは、ILIと急性呼吸器疾患

(acute respiratory illness:ARI)の相談件数の割合は現在減少傾向が報告されている。3月の第1

週目(第10週)に定点の外来クリニックで1,708件の呼吸器検体が採取され、そのうち723件(42%)

がインフルエンザウイルス陽性で、ピーク時の46%からは2週間連続して低下している。ILIの受

診件数の割合は、ほとんどの国において2010/2011シーズンに報告されたレベルを下回っている

が、これはすべての国における状況ではなく、いくつかの国においては昨年のレベルを上回って

いる。重症急性呼吸器感染症(severe acute respiratory illness:SARI)の症例数は2010/2011

シーズンの同時期の報告よりも低いが、シーズンが続けば上がる可能性がある。ヨーロッパ死亡

モニタリングプロジェクト(The European Mortality Monitoring Project:EuroMOMO)から報告さ

れた全死因死亡率は、シーズン早期には低かったが、過去数週間は65歳を超える年齢で増加

していた。ヨーロッパ全体では、インフルエンザの検査確定例のうち91%がA型で、9%がB型で

あった。シーズン開始より、A(H3N2)が亜型別されたA型の98.8%と最も多く検出が続いている。

A型はシーズン開始よりすべて現在のワクチン株と類似性があった。一方、検査をしたB型12株

のうち10株が山形系統であった。検査された245のウイルス株のうち抗ウイルス薬に耐性のある

ものはなかった。

・北部アフリカと地中海東部

北部アフリカと東地中海地域におけるインフルエンザの活動性は、年の初めにすでにピークを

迎えており、インフルエンザ陽性の検体数は過去数週間で減少している。A(H3N2)がシーズン

を通して最も多く検出された亜型であったが、A(H1N1)pdm09の割合が増加しており、この1週

間では最も多い亜型となった。

・アジア温帯地域諸国

中国北部では、国全体の定点病院におけるILIの割合は前週よりわずかに増加し現在は3%

を超えているが、1月のピークよりは低い。全体の割合は昨シーズンと同様である。モンゴルにお

けるILIの割合は増加しており、国の警戒レベルを超えている。入院患者の中で肺炎の患者の

割合もまた過去3週間で急激に増加しており、2010/2011シーズンのピークよりも高くなっている。

いずれの国においても、B型が優位に流行している型である。日本と韓国においては、1月と2月

のピーク以降低下傾向である。シーズンを通して、日本と韓国においてはA(H3N2)が主な流行

ウイルスであったが、過去数週間でB型の割合が増加している。

【熱帯地域諸国】

・アメリカ大陸の熱帯地域諸国

南アメリカの熱帯地域諸国では、インフルエンザの伝播は低いか検出できないレベルと報告し

ている。

・サハラ以南のアフリカ

サハラ以南のアフリカにおいては、得られるデータでは多くの国々でインフルエンザの活動性

が低いことを示している。

・アジアの熱帯地域諸国

全体としてアジアの熱帯地域諸国におけるインフルエンザの活動性は、減少または低く、B型

が最も多く検出されている。

中国南部では、国全体の定点病院におけるILIの受診件数の割合はわずかに減少し、現在は

3%以下と報告した。第9週に中国南部で検査をされた1,173件の検体のうち552件(47.1%)がイ

ンフルエンザ陽性であった。流行しているほとんどのインフルエンザウイルスはB型(陽性検体の

71%)であり、A型の亜型は100%がA(H3N2)であった。中国と香港特別行政区においては、全

体のインフルエンザの活動性は2月中旬にピークを迎えたようである。流行しているほとんどのイ

ンフルエンザウイルスはB型(78%)であった。2012年1月13日以降、18歳以上の患者の中でイン

フルエンザ関連の集中治療室入院または死亡のモニタリングでは、検査確定例が57例あり、う

ち34例が死亡した。

【南半球温帯地域諸国】

南アメリカ、オーストラリアおよびニュージーランドの温帯地域においては、インフルエンザの活

動性は流行間期のレベルである。

【世界におけるインフルエンザウイルスの活動性】

第8~9週(2012年2月19日~3月3日)のFluNetからの報告によれば、89の国と地域及び領土の

国家インフルエンザセンターと他の国家レベルインフルエンザ検査室がデータを報告した。WHO

のGISRS検査室は46,916件以上の検体を検査した。14,235件がインフルエンザウイルス陽性で、

そのうち10,965件(77%)がA型、3,270件(23%)がB型で、亜型別されたA型のうち794件(13.2%)

がA(H1N1)pdm09、5,234件(86.8%)がA(H3N2)であった。解析されたB型のうち、475件(47.5%)

が山形系統に属し、525件(52.5%)がビクトリア系統であった。前回の報告に比べ、ビクトリア系

統に対する山形系統の割合が増加している。

・要約

2012年の第8~9週において、検査確定されたインフルエンザの活動性は、北半球の多くの

国々で依然増加している。

A(H3N2)は世界的に検出されるウイルスの亜型の中で未だ優位であった。概してA(H1N1)

pdm09は低かった。B型の活動性は多くの国々で高くなっており、中国においては依然として流

行ウイルスの主流である。ヨーロッパではA(H3N2)の地域的及び広範囲に及ぶアウトブレイクが

報告されており、いくつかの国々ではB型との混合流行の増加も報告されている。

カナダと米国においてはA(H3N2)の流行が続いているが、B型の検出件数が前報告期間よ

りも増加している。B型は、B/山形とB/Victoria様系統ともいずれの国においてもほぼ同じ割合

で検出された。A(H1N1)pdm09は、地域的な流行が報告されているメキシコを除いて、散発的

ではあるが検出が続いている。

アジアでは、A(H3N2)とB型の活動性が依然高まっており、中国と香港特別行政区において

はB型が優位である。A(H3N2)は日本において優位な状態が続いているが、前週よりもさらに低

いレベルにある。A(H1N1)pdm09は多くの国々で非常に低いレベルで検出されている。

南半球では、インフルエンザの活動性は低いレベルで続いており、散発的に検出されるウイル

スのほとんどはA(H3N2)である。

北半球の2012/2013シーズンのインフルエンザワクチン株の組成についてWHOの勧告に関す

る包括的な報告は、Weekly Epidemiological Recordに発表されている。

北半球の2012/2013シーズンのインフルエンザワクチン株の組成についての更新された勧告に

関するQ&Aは、WHOのWebサイトで最近公開された。

パンデミック事前準備のための、A(H5N1)およびA(H9N2)を含むワクチン候補株の選択と開

発に関する評価報告書はWeekly Epidemiological Recordに公表されている。

【査読された(信頼できる)文献から】

2012年1月17日に、the Proceedings of the National Academy of Sciencesは、Tongらによるグアテ

マラの2カ所で捕獲されたyellow-shouldered batにおいて、新しいヘモアグルチニン(HA)亜型

(H17)をもつインフルエンザウイルスA型を同定した
1)。加えてすべての他の7つの遺伝子分節

は、これまで知られているA型ウイルスから遺伝学的に遠く離れていた。2年間にわたって捕獲

された316匹のコウモリのうち3匹がconsensus-degenerate RT-PCR/PCRプライマーを使用した方

法でウイルス陽性となった。コウモリのウイルスのHAは、他のすでに知られている16のHA亜型

とほぼ同じ時期に分岐したと推定されている。このウイルスは他のすべての16の亜型とアミノ酸

レベルで45%の相同性をもち、他の亜型間での相同性と似たような状況であった。遺伝子解析

により、コウモリのウイルスは既存のA型、B型、C型からかなり離れているが、グループ1のHAに

より近い関連性があるためH17とされた。もちろん明確な分類学上の整理が必要である。ノイラ

ミニダーゼ(NA)遺伝子もまた他の知られているインフルエンザウイルスから大きく隔たっており、

他のインフルエンザウイルスとは、より古い先祖との関連性を示唆している。ニワトリ胚細胞や培

養細胞でウイルスを増殖させることはできなかったが、コウモリのウイルス遺伝子の一部はヒトの

ウイルス遺伝子と共通の部分もあるようで、ヒトとコウモリのウイルスのリアソータントは不可能で

はないのかもしれない。著者らは、この発見はインフルエンザウイルスの自然宿主の幅を広げる

可能性があり、コウモリの集団のなかでどのようにしてウイルスが維持されているのか、他にも自

然宿主があるのかどうかも含めて更なる研究が必要であると結論している。

コメント:

インフルエンザウイルスは以前にもコウモリに感染することが報告されており、この新しいウイル

スの公衆衛生学的な重要性はよくわからない。ヒト世界におけるパンデミックの出現は、1918年

と2009年のブタ由来のA(H1N1)のアウトブレイクにみられるように、しばしばほ乳類の宿主にさ

かのぼることができる
2)。両方とも、ウイルスは長期間にわたってブタの集団で循環し、ヒトにお

いてアウトブレイクが発生する以前に、重要な遺伝子の組み換えが進行していた。このH17ウイ

ルスの進化論的遺伝学を理解することは、ヒトにおけるアウトブレイクの将来の潜在的なリスクを

軽減することに貢献できるかもしれない
3)。最近ヘンドラウイルスやニパウイルスなど、コウモリから

他のウイルスが出現していることもあり、コウモリの生息地を更に侵害することによって、直接的あ

るいは他のほ乳類を介する新たなウイルスのヒトへの感染伝播の機会を増加させるのではない

かと懸念されている。

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